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木造建築でも、円形の壁を作りたいというご要望をいただくことがあります。当事務所では、曲線形状、円形のモチーフを積極的にデザインに取り入れてきました。
実際にどのような家を作ってきたのかは、こちらをご覧ください。

円形の壁は構造的に安全なのだろうか?と心配される方もいらっしゃるかもしれませんが、構造設計、施工を真っ当に行えば心配することはありません。

上の写真は、箱根で現在施工中の住宅です。階段室部分を円形壁にしています。円形部分には通し柱という2層の長さの柱を7本採用し、横方向をつなぐ梁を密にすることで軸組を強化。さらに杉板で壁面を固めていて、とても強固な構造体になっています。
今回は、この住宅の「丸い壁」部分の下地作りをリポートします。

木造の円形壁の作り方

この現場では、円形のモルタル壁を作ります。モルタルとは、セメント・砂・水を混ぜて練り上げたもので、耐火性に優れ、継ぎ目のない美しい外観を実現できるのが長所です。モルタル壁の作り方を大まかに説明すると、以下の通りです。

  1. 骨組み:柱と梁で骨格を作ります。
  2. 下地の下地(1):木ずり板と呼ばれる杉板(ここでは杉板と呼びます)を、隙間を空けて貼ります。最初にお見せした写真はこの工程です。
  3. 下地の下地(2):杉板の上にアスファルトルーフィングという防水シートを貼り、ラスという金網を貼ります。ラスを貼るのは、モルタルの壁への接着力を強くするためです。
  4. 下地:ラスの上にモルタル(軽量モルタルに繊維を混ぜた、軽量で粘りのあるモルタル)を塗ります。下塗り、中塗り、上塗りと回数を重ねて滑らかな曲面を作っていきます。
  5. 化粧仕上げ:左官仕上げまたは吹付塗装を行います。

このように、壁面が完成するまでには、いくつもの工程があります。最近はこうした手間を軽減する工法が開発され、コスト減にもつながっていますが、当事務所では昔ながらのスタイルを採用しています。
なぜ、わざわざ手間とコストのかかる工法を選んでいるのでしょうか。その理由は、モルタル壁の短所がなるべく出ないようにするためです。

円形壁に限らず通常のフラットな壁でも同じですが、モルタル壁はクラック(ひび割れ)が発生したり、“下地の下地”である合板等の接合部分が浮き上がって見えてしまったりすることがあります。

モルタルは、水で練って壁に塗り、乾燥させていく過程で収縮します。しかも、木造建築は本来柔らかい骨組みなので、風や地面の振動によって揺れます。クラックはモルタル壁の宿命ともいえますが、少しでも防ぐために、当事務所は丁寧な作り方を選んでいます。

大工さんによって作られる“骨組み”と杉板の“下地の下地”(今まで関わりのあった左官職人の方々は皆さん、「合板ではなく杉板で」と言います)。左官職人さんの手によるモルタル塗りの面の“下地”。こうした作業の積み重ねによって、クラックが出にくい美しい円形壁を作ることができるのです。

これぞ大工の神技!

難易度の高い工事を請け負ってくれる工務店を探すのは、簡単なことではありません。今回も、図面を見せて見積をとる段階で数社が辞退してしまいました。
こういうときに頼りになるのは、信頼関係のある工務店です。

いざ施工し始めると、大工さんたちの創意工夫で着々と作られていきます。杉板も不思議なほど曲がっていきます。しかも、大工さんたちは楽しそうです。

この状態でも見た目としては十分に素晴らしいと思っています。しかし運命として、この上にはモルタルが塗られるため、杉板は見えなくなってしまいます。たった数日間の、大工さんの技のお披露目期間です。

上の写真は、地面に近い部分の杉板に柿渋を塗っているところです。柿渋は、防腐と防蟻の効果がある自然素材です。

家が完成したら見ることのできない“下地の下地”を作る際にも決して手を抜かず、しかも前向きで楽しみながら作業をする現場を体験できて幸せに感じます。
丸い壁がきれいに出来上がったら、建築主にも最高のプレゼントになると思います。

家づくりに関して疑問に思うことがあれば、こちらもご覧ください。
家づくりQ&A

湘南を拠点にする一級建築士事務所 米村和夫建築アトリエ/風のアトリエ
所長 米村和夫

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